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2012年1月27日(金)

ツイートで紹介した、森田真生氏の、友人である江本伸悟氏からのメールです。
メールの初めにある馬の、骨折の事とは、江本氏が、馬の骨折に関して、ツイートしていたので、私が「競争馬は、骨折して足が使えなくなると、血液の循環がうまくいかなくなり敗血症になるので、骨折するとすぐに安楽死の薬殺するのでしょう」と、江本氏にメールした事についての返礼です。


言葉になりえないことを無理やり言葉に押し込めてしまったようで、やや反省もしております。

馬の骨折に関して、どうもありがとうございます。馬にとって「走る」ということが、同時に血液を循環させることであることに、なんだか生命の深さを感じます。生命というのは、それぞれの機能を持ったパーツを寄せあつめた古典的なロボットのようなものとは、全く異なるものなんだということを、改めて感じます。

今回このようなことを考えていたのは、なぜエネルギー不足を叫びながらも、モノがあふれたこの世の中で、未だに生産と消費の連鎖が止まないのかということを考えてのことでした。ヒトはなんのために生産と消費を行なっているのかということを考えなおしてみると、それは単にモノを求めてのことではなく、現在においてはむしろ「退屈」を回避するためだという面が大きいと思います。

「退屈」というと些細な問題に思えますが、暇と退屈の倫理学という本を読んで、ヒトにとって「退屈」であるということ、つまりヒトが備えた精神的な力を十分に燃焼できないでいることは、思った以上に一大事なのだと感じました。

人類は400万年の歴史のうち、そのほとんどを遊動生活をしてすごしていたそうです。ところが1万年前に生じた気候変動の影響で、ユーラシア大陸の各地で同時多発的に、定住生活が始まったそうです。それまで慣れ親しんだ遊動生活のスタイルを捨て、新しく定住生活を始めなければならなくなった人類は、さまざまな問題に直面するのですが、その中のひとつに「退屈」という問題がありました。遊動生活においては、ヒトは新しい環境へと適応すべく、その心的能力を常に活性させていたのですが、定住生活においては、周りに広がるのは常に同じ風景でして、そこにはなんら刺激がなく、ヒトは心的能力を発揮し、精神を燃焼させる場を失ってしまったのだという旨が書かれています。

馬というのは、走ることを前提としてその生命を形作ってきたが故に、走ることと生きることとが分かち難く結びつき、たとえ「走ることそのもの」に対する必要がなくなったとしても、もはや走らずには生きていけないのだという、そういった生命の不器用さのようなものを感じています。

同じように、遊動生活によって絶えず変化に晒され、それに適応するための心的能力を前提として進化してきた人間にとっては、その心的能力は必要なときだけ活かせばよいという生易しいものではなく、常にその能力を生かし続けねばならないという、ある意味やっかいで不器用なものだと思うようになりました。

馬が走らずには血液を循環できないように、人間も変化と刺激の中で心的能力を活かし続けないことには精神を循環できず、「退屈」というのはなかなか侮れない問題なのだと思います。

だからこそ、エネルギー不足の問題は難しく、ただ単に質素倹約を叫ぶだけでは、人々の精神が滞ってしまいそうです。しかし現実には、このままの勢いでモノを生産し消費し続けるわけにはいきません。モノの生産消費活動に変わって、人々の精神を健全に燃焼するための新たな場を創造するのが、これからの僕らの課題ではないかと思っています。

僕はここに、科学というものが一つ貢献できるのではないかと思っています。

人々がこうまで旅行を楽しむのは、遊動生活の名残りとでもいうもので、新たな土地と風景のなかで新たな刺激に出会い、そうして精神を燃焼させているのだと思います。一方で科学というのも、見慣れた風景のなかに深く足を踏み入れることで、あるいは今までとは異なる角度から眺めることで、新たな一面と刺激とを見出すものですから、これも一種の旅行のようなものです。

近年の科学者は、新しい知を生みだすこと、端的に言えば論文を書くことにその役割を集中させてきましたが、こうした文化としての科学を発展させることも、これからの科学者の役割の一つなのだと感じています。

昨日、上記のような問題に関して、山口の教育を支える防長教育会の場で、お話をしてきました。その際の発表原稿が、随分と長くなるのですが、またプリントアウトしてお送りさせていただこうと思っていますので、ぜひお手すきの際に、ご覧になっていただければと思います。

思いがけず長々とした返信になってしまいました。これからも、よろしくお願いいたします。

以上1日分/掲載日 平成24年1月28日(土)


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