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2009年5月4日(月)

 仙台での稽古会の前に、峠田の炭焼き佐藤光夫氏宅に寄って、様々なことを忘れて、ひととき東北の春を味わった。佐藤氏が炭を焼いている辺りは山桜が盛りで、まだ新緑というほどではなかったが、10キロほど下がった辺りはブナやらコナラ、ハウチカエデなど、むせかえるような新緑で、佐藤ファミリーと天然のシャクヤクを見たり、沢沿いの山菜シドケ(モミジガサ)を採ったりした。
 あとは、自然の中で打剣など。私にとって一番の休みとは木々に囲まれたなかで自分がしたい稽古をすることだが、久しぶりにそれが出来たし、気づきもあった。
 先月半ばから始めた禁糖は、一応その期間は終わったが、昨年と同じく離糖状態。薄甘いものなら、まだ口に出来るが、甘いものは果物でも一口以上進まない。今回、自宅の甘くない夏みかんが不作で、そのため、甘くない昔ながらの夏みかんを入手したい旨を、この随感録に載せたところ、知人数氏から夏みかんを沢山送っていただき、大変ありがたかった。

 また、見ず知らずの方からも入手方法について教えて頂きました事を、あらためてこの場を借りて御礼申し上げます。

以上1日分/掲載日 平成21年5月5日(火)


2009年5月6日(水)

 「ことし元禄二年にや奥羽長途の行脚、ただかりそめに思ひ立ちて呉天に白髪の憾みを重ぬといえへども…」
 音というのは妙なもので、「元禄二年にや」を「げんろくふたとせにや」と読むと一層心に染みわたって来る。
 フランス行きの仕度をしながら片付けていて、ふと見つけた、この『奥の細道』の一節が心に染みてきて、何だか妙に感傷的になる。もちろんフランスといっても、現代では、この『奥の細道』で呉天という中国南部や天竺、つまりインドを例えに出している奥州旅行より、遥かに手近で安易な旅だが、言葉もまるで違う、遠い異国には違いなく、いま何かの事情で取りやめになったら、きっとホッとするだろうと思う。しかし、まあそうもゆかないので仕度は続けることにするが…。
 こういう思いを持ったのも、昨日、渡仏も間近なので、名越氏の誘いで身体教育研究所の野口裕之先生の許に伺った事が関係しているのかもしれない。昨日は、体は観て頂かなかったが、最近の私の技の状況をちょっと体験して頂いたのだが、私の予想を遥かに越えた賛辞を頂いてしまい、妙な言いようだが、それが私にとってあまりに予想外だったせいか、何とも言えない淋しさが募ってきているような気がする。(まあ、いちおう文字にしてみたが、この時の私の感じは、大変微妙な思いで容易な事では、人には伝わらないと思う)
 それにしても野口裕之先生の整体は、先代の野口晴哉先生の教えられたものと、根のところでは勿論つながっているのだろうが、幹の肌の具合も葉も、まるで別の木としか思えないようになっているが、その裕之先生の御長男の整体が、これまた裕之先生とは、まるで別種の木の趣だというのだから、人間の自然な働きを活かすという方法も、一体どのくらいあるのかと思うと呆然とする。 もっとも、このお話のお蔭で私の淋しさもかなり救われたように思う。
 このように複雑微妙な人間の心の動きと体の働きそのものを探究することに深い関心を持つ文化が育てば、現在の金融危機とか、環境問題を根底から変える事が出来るのだろうが、それは本当に難しい事なのだろう。
 しかし、まあその方向にいくらかでも私が関わる事が出来れば幸いと思い、今回のフランス行きもその一助と、自分に言い聞かせて仕度を続けよう。

以上1日分/掲載日 平成21年5月7日(木)


2009年5月13日(水)

 パリに着いて5日目、今日から今回の渡仏のメインな用件である、パリ日本文化会館の仕事が始まる。私としてはもう3日間も熱心な合気道を主とする武道関係の人達対象の講習会を行ったり、身体教育研究所に来られていたNさん宅の食事会に招いていただいたり、物理学者のS先生と懇談したりと、盛りだくさんなイベントを終えたので、もうパリまで来た意味は十分にあったと、一仕事済ませたような気分になっているが、まだこれからパリ日本文化会館での仕事、コルマールとストラスブールでのイベントと、本格的用件は残っている。
 それにしても、我ながら奇妙に思うのは私自身の体調。日本を発つ前からの喉の異常は、ここ数日、夜間激しく咳き込むほどになっていたが、昼間は別人のように平常と変わらない。とにかくインフルエンザであちこちが神経を尖らせている時期だから、少しでも周囲を不安がらせないようにしたいと思っているが、それはほぼ今のところ保っていられる。
 しかし、ホテルでは同行の陽紀が真夏に近い軽装なのに、私は着込んでいてちょうどいいのだから、やはり普通ではないのだろう。しかし、「ここで体調は崩せないぞ」という緊張感が、自分を保たせていられるという経験は、貴重だ。
 ホテルでの食事はずっと黒パンと山羊のチーズと生野菜と果物。果物はあまり甘くない青リンゴやスモモがあって助かった。レストランでの食事は口に合わないものもあるが、このホテルでのメニューはあと何ヶ月続いても飽きることはなさそうだ。

以上1日分/掲載日 平成21年5月13日(水)


2009年5月20日(水)

 20日の午後、成田空港にフランスから無事帰着する。今回のフランス行きは、前回とは様々な面で大きく違った。一番違ったのは、前回はフランスに居る間、悩みも憂いもなかった代わりに夢も希望も楽しさもなかったのだが、今回は前回と異なり、パリ以外にも出かけた事で印象は大きく変わった。特に高速列車TGVでストラスブールやコルマールなどアルザス地方に行けた事は大きかった。
 時速200キロを超えるTGVで1時間半走り続けても、左右の車窓に広がるのは緩やかに起伏した大地が空との境まで畑と林、そして牧場で、これには圧倒された。まあ、これなら食料の自給率が100パーセント以上あるのも当然だろう。
 そして感激したのはアルザスだけではない木々の見事さ。美術館で絵を観るより、見事な木を見る方が好きな私にとって、樹齢が250年以上という幹の周囲が5メートル以上あるスズカケの木や、葉がワインレッドの様な濃い赤紫の木の巨木を観ることが出来たのは感激だった。
 そして、パリを発つ直前に、パリ郊外の森にも入ることが出来た。この森は、十年前の嵐で巨木が数多く倒れたという事だったが、それでもカシワの様な、ナラの様な感じの巨木を何本も見ることが出来た。平地の森というのは、日本ではきわめて珍しいから、これは本当に異国の自然の中にいる感じを味わった。
 そして今回は、フランスに在住の何人もの日本人の方々と、フランス人の方々にお世話になり、随分と話す機会も持てた。
 この場を借りてお世話になった方々に心から御礼を申し上げたい。また、技の上での気づきもいくつかあったが、家に帰りついてみると、さすがに疲れがドッと出てきたので、フランスで気づいたこと、体験したことなどは、またあらためて書くことにしたい。

以上1日分/掲載日 平成21年5月20日(水)


2009年5月25日(月)

 フランスから帰って半日くらい寝た日があったりして、やはり疲れていたのだと思ったが、それが一段落してからの忙しさは、ちょっと記憶にないほど…。昨日は十分に充電してあった筈の電話の子機が遂に使えなくなった。とにかく間断なくいくつもの用件が集中豪雨のように降ってくる。
 そういう中にあって、つくづく溜息が出るのは、ライターやその他イベント関連で何か書く人の文章力の無さと、それ以上に、簡単な私の願いも、聞いてもらえない事。私に取材をしたライターの人達には、本当にくどいほど「ラフ段階で見せて下さい、単純な勘違いがあるかもしれませんから」「取材から一応の文章が出来るまで時間が空いたら、私が不在の恐れもありますので、そういう時は途中で連絡するなりして〆切が迫ってから原稿を送るような事はしないで下さい」と、念には念を入れて言っているのに、最近はまた、全く守られない。滞在中のフランスにまで2件メールが来て、1件は国際電話で校正した。
 一体どういう頭の構造をしているのだろう。これだけ不況で就職が厳しいというのに、こんな小学生でも守れる程度のことも出来なくて、仕事がやっていられるのが実に不思議である。世の中も甘くなったものだ。

以上1日分/掲載日 平成21年5月26日(火)


2009年5月27日(水)

 嵐のようだった用件も少し落ち着いてきたが、昨夜遅く、というより夜明け近く、今年初めてとなるホトトギスの声を聞く。一昨日も、何かホトトギスの声の一部を聞いたような気がして耳を澄ましたが、その後は何も聞こえず、「まだ、ちょっと早かったかな」と思ったのだが、昨夜は午前3時半頃ハッキリと何度も耳にし、「ああ、ホトトギスの季節か。来月21日に行く佐渡でも、この声を聞くことが出来るかな」と、ひととき、それ以外の事を忘れた。
 ホトトギスは日本では古来歌に詠まれることの最も多い鳥だと思うが、私がこの鳥の声がたまらなく好きになったのは、比較的近年で、多分ここ10年以内のことだと思う。何がキッカケだったのか忘れてしまったが、好きになってからは、この声を聞くと何ともいえない思いにかられ、他のことを忘れてしまう。そのため、この鳥が家の近くで鳴く6月頃は、どうしても寝るのが遅くなってしまいがちだ。(なぜか私の家の近くでは午前2時頃から鳴き始めるので)
 先日行ったフランスでも、いい声で鳴く鳥がいたが、ホトトギスのような声は耳にしなかった。ただ、フランスではまるで赤ワインのような色の葉をつけた木をあちこちで見かけ、大変興味を惹かれたので、いろいろな人に尋ねたが、誰も詳しいことを知らず残念な思いをして帰ってきた。帰国後、何人かの人達に尋ねたら、私が直接訊いた人は誰も詳しいことを知らなかったが、その後、尋ねておいた何人かの方々から、またフランスのアルガスでお世話になった領事館の方からもメールや電話を頂き、大きな木はアカバブナ、高さ4〜5メートルの木はベニバスモモ(アカバザクラ)、それとノールウエーカエデらしいことが判明した。(教えて頂いた方々には、ここでお礼を申し上げたい)きっと日本でもどこかに植えてあるだろう。縁があったら見てみたいものだ。
 また、この赤い葉は紅葉の時期には黄色くなるのだろうか?2年半前、パリに行った時には11月で木々はほとんどすべて黄色か茶色の葉に染まっていたから、この赤い葉も秋には黄色か茶色になるように思うが、もしご存知の方がいらっしゃれば教えて頂きたい。

以上1日分/掲載日 平成21年5月28日(木)


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